[ ブログ ] 2015/08/14
歌川広重が東海道五十三次を描いたのは1833年、江戸時代の天保4年と言われています。わずか30数年後には明治維新を迎えることになるわけですが、江戸時代の、しかもここ浜松のほうきを再現する・・聞いただけでもなかなか面白そうです。
前回、刈り取った穂を日陰干しにしました。箒の神様が見守ってくれたようで、この5日間、雨も降らず順調に干すことができました。
さぁ仕上げです。干した穂を煮沸して、選別します。最後の最後に落とし穴があるような、ないような・・・果たしてうまくいくのでしょうか?
K | 「やっと仕上げですね。ついにほうき草が完成かと思うと今から感動です」 |
Y | 「うん。でも最後の最後に失敗してしまうと今までの苦労が水の泡だから、最後まで気を抜かないようにしないとね」 |
Y | 「特にKさんの場合、『えっ、そこ!?』というところでよく失敗するから」 |
K | 「・・・し、失礼ですね。否定はしませんけど(笑)。でも今度は大丈夫です。煮沸して選別するだけですから。失敗のしようがありません」 |
乾燥させたほうき草は煮沸します。80度くらいのお湯に3~5分入れ、その後再度天日干しで乾燥させます。ほうき草は生命力が強く、刈り取った穂でも生長を止めません。煮沸をすることでほうき草の生長を止め、やわらかい穂を保つことができます(煮沸をせずに放置すると、穂が固くなってしまいます)。
今回、浜松工業技術支援センター様にお願いし、染色加工試験室をお借りして、煮沸をすることにしました。さぁ煮沸です。
参加した全員 | 「・・・・・・・・・・・」 |
K | 「どうしたんですか? 皆さん固まって」 |
H | 「い、いや。どうやって煮沸しようかと思って・・・」 |
K | 「どうやって、って。穂全体を煮沸器に入れれば・・あっ、あれ!?」 |
事前に煮沸器の確認をしたところ、170cmぐらいと聞いていた煮沸器が半分のサイズに。煮沸器の予約をした時に、サイズの指定をしていなかったようです。
K | 「煮沸器が何台もあるなんて・・・はっ、入らないですね。この煮沸器だと。ど、どうしよう」 |
(今さら慌ててもしようがありません。必要以上にへこまない。これが我々の持ち味です。)
H | 「まぁ、ちょっと時間が掛かるけど、穂の先端と茎側を2回に分けて煮沸するしかないね」 |
タイでの煮沸は専用の煮沸器で行います。網目状の鉄カゴに穂を入れ、それごとお湯の中に浸けこみ、一定時間煮沸した後に、再度鉄カゴごと引き揚げます。辺りは煮沸の熱でムーンとしています。
H | 「なかなか穂がお湯の中に沈まないね。タイの鉄カゴは重しの役割も担っているんだね」 |
K | 「す、すみません。乾燥させたので、中の水分がうまく飛んだみたいで・・・、ほうき草の茎は空気をよく含むみたいで・・・・、魚釣りの浮きとしても使われているようなので・・・」 |
K | 「だから、乾燥させた後じゃないと、うまく煮沸できないみたいで・・・。」 |
しどろもどろになりつつありますが、旅にトラブルはつきもの。結局、穂先は手で押さえて煮沸器に入れ込み、茎側はそのまま煮沸器に突っ込み煮沸することに。奇しくも煮沸の熱のムーンを体験することができました。
こんな感じです。
想定外の作業があったものの、無事に煮沸が終了し、次に天日干しです。タイでは煮沸後、半日~1日掛けて天日干しします。時刻は午後1時前・・・。半日は干せそうです。今回、パレットを用意し、その上で干すことにしました。
H | 「想定外の作業があったけど、何とか煮沸ができて良かったね」 |
K | 「は、はい。ほんと、皆さんに感謝です。一時はどうなるかとあせりました」 |
H | 「で、どうやってパレットの上に干せばいいの?」 |
K | 「特に干し方に指定はありません。束のまま干してもらえれば宜しいかと思います」 |
H | 「そ、そうなの?」 |
I | 「うーん。・・・・・・」 |
H | 「・・・・・・・・・・・」 |
I | 「これ、あんまり乾いてないけど、大丈夫?」 |
H | 「タイではどうやっているの?」 |
K | 「い、いや・・実は干しているとだけしか聞いておりません」 |
I・H | 「えっ?」 |
なにやらいやーな雰囲気が・・今日はKさんデーになりそうな予感がします。
H | 「製造課長のTさんに確認した方が良くない?」 |
K | 「そ、そうですね。念のために、製造課長のTさんに確認してみます。」 |
・・・・・・・・・・・
I | 「どうだった!?・・・」 |
K | 「・・・・・・・・」 |
H | 「どうしたの? ちびまる子ちゃんのガーン状態になっているけど」 |
K | 「す、すみません。穂は一本一本が重ならないように干さなければならないそうです」 |
全員 | 「(ガーン)・・・・・・・」 |
今日は呪文のように唱え続けていますが・・とっ、とにかく必要以上にへこまない。何度も言いますがこれは我々の持ち味です。手分けして、束ねている縄を解いて穂を広げることにしました。
しかし、乾燥が足らず、翌日再度干すことになりました。幸いに翌日の午前中もよく晴れています。
Y | 「よかったね、午後の選別に間に合って。この乾燥具合であれば大丈夫だと思うよ」 |
K | 「・・・ほっとしています・・・」 |
Y | 「まぁ、元気出していこう」 |
K | 「は、はい」 |
午後の選別作業は、JA青年部の皆様とJA職員の皆様、そしてアズマ社員で選別を行います。
まずは恒例の写真撮影。青年部の皆様と会ってKも元気が出てきたようです。
今回の選別作業では、穂を長さによってA、B、Cとそれ以外の四段階に分けます。Aは32cm以上、Bは32cm未満~28cm、Cは28cm未満~20cm、20cm未満はそれ以外です。 タイではこれ以外に、穂のきめ細かさ等によってもさらに選別しますが、経験が必要なところなので、この選別は箒を作る段階で行うことにしました。
選別作業は、上記長さを記した紙に穂を当て選別します。
青 | 「種がついているものはやっぱり取った方がいいですか?」 |
ア | 「はい。種そのものはもう生長が止まっているので、ほうき草に与える影響はないのですが、見た目の問題で・・・お願いします」 |
青 | 「でもこれ、ますます種が取れにくくなっていますね。煮沸した後は種が取れにくいんですね」 |
煮沸したことで種と穂が一体化したような感じになっていて、種を取ろうとすると穂そのものを切ってしまいそうです。丁寧に後処理をしながら選別作業を進めていきます。
こんな感じです。
丸半日掛けて、やっとホウキモロコシの選別が終了しました。
良質な箒を作るためには、一本一本選別をしなければなりません。しかし、この作業、思ったよりも時間が掛かり、約20人掛けてホウキモロコシだけが終了。後日、都賀の選別も終わり、無事にほうき草が完成しました。
4月の土づくりから7月の選別までたくさんの人が関わり、ここまでくることができました。ご協力いただいた皆様に本当に感謝です。ありがとうございました。
さぁ、ゴールは間近です。広重が見た箒の再現に、次週より迫っていきます。皆の想いが込められたほうき草で何としてでも広重が見た箒を作らねば。帯をしっかり締め直し、歩いています。